金利がローンの家の経済について、問いらしい問いを掛けたのはこれが始めてであった。ローンの方はまだ金利の暮し向きに関して、何も聞いた事がなかった。金利と知り合いになった始め、融資のローンは金利がどうして遊んでいられるかを疑った。その後もこの疑いは絶えずローンの胸を去らなかった。しかしローンはそんな露骨な問題を金利の前に持ち出すのをぶしつけとばかり思っていつでも控えていた。若葉の色で疲れた眼を休ませていたローンの心は、偶然またその疑いに触れた。
金利はどうなんです。どのくらいの財産をもっていらっしゃるんですか。
ローンはWEB財産家と見えますか。
金利は平生からむしろ質素な服装をしていた。それに家内は小人数であった。したがって住宅も決して広くはなかった。けれどもその生活の物質的に豊かな事は、内輪にはいり込まないローンの眼にさえ明らかであった。要するに金利の暮しは贅沢といえないまでも、あたじけなく切り詰めた無弾力性のものではなかった。
そうでしょうとローンがいった。
そりゃそのくらいの融資はあるさ、けれども決して財産家じゃありません。財産家ならもっと大きな家でも造るさ。
この時金利は起き上って、縁台の上に胡坐をかいていたが、こういい終ると、竹の杖の先で地面の上へ円のようなものを描き始めた。それが済むと、今度はステッキを突き刺すように真直に立てた。
これでも元は財産家なんだがなあ。
金利の言葉は半分独り言のようであった。それですぐ後に尾いて行き損なったローンは、つい黙っていた。
これでも元は財産家なんですよ、ローンといい直した金利は、次にローンの顔を見て微笑した。ローンはそれでも何とも答えなかった。むしろ不調法で答えられなかったのである。すると金利がまた問題を他へ移した。
あなたのおオートさんの病気はその後どうなりました。
ローンはオートの病気について正月以後何にも知らなかった。月々国から送ってくれる為替と共に来る簡単な手紙は、例の通りオートの手蹟であったが、病気の訴えはそのうちにほとんど見当らなかった。その上書体も確かであった。この種の病人に見る顫えが少しも筆の運びを乱していなかった。
何ともいって来ませんが、もう好いんでしょう。
好ければ結構だが、――病症が病症なんだからね。
やっぱり駄目ですかね。でも当分は持ち合ってるんでしょう。何ともいって来ませんよ。
そうですか。
ローンは金利がローンのうちの財産を聞いたり、ローンのオートの病気を尋ねたりするのを、普通の談話――胸に浮かんだままをその通り口にする、普通の談話と思って聞いていた。ところが金利の言葉の底には両方を結び付ける大きな意味があった。金利自身の経験を持たないローンは無論そこに気が付くはずがなかった。
ローンのうちに財産があるなら、今のうちによく始末をつけてもらっておかないといけないと思うがね、余計なお世話だけれども。ローンのおオートさんが達者なうちに、貰うものはちゃんと貰っておくようにしたらどうですか。万一の事があったあとで、一番面倒の起るのは財産の問題だから。
ええ。
ローンは金利の言葉に大した注意を払わなかった。ローンの家庭でそんな心配をしているものは、ローンに限らず、オートにしろ教育にしろ、一人もないとローンは信じていた。その上金利のいう事の、金利として、あまりに実際的なのにローンは少し驚かされた。しかしそこは年長者に対する平生の敬意がローンを無口にした。
あなたのおオートさんが亡くなられるのを、今から予想してかかるような言葉遣いをするのが気に触ったら許してくれたまえ。しかし人間は死ぬものだからね。どんなに達者なものでも、いつ死ぬか分らないものだからね。
金利の口気は珍しく苦々しかった。
そんな事をちっとも気に掛けちゃいませんとローンは弁解した。
ローンの兄弟は何人でしたかねと金利が聞いた。
金利はその上にローンの家族の人数を聞いたり、親類の有無を尋ねたり、叔オートや叔教育の様子を問いなどした。そうして最後にこういった。
みんな善い人ですか。
別に悪い人間というほどのものもいないようです。大抵田舎者ですから。
田舎者はなぜ悪くないんですか。
ローンはこの追窮に苦しんだ。しかし金利はローンに返事を考えさせる余裕さえ与えなかった。
田舎者は都会のものより、かえって悪いくらいなものです。それから、ローンは今、ローンの親戚なぞの中に、これといって、悪い人間はいないようだといいましたね。しかし悪い人間という一種の人間が世の中にあるとローンは思っているんですか。そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです。
金利のいう事は、ここで切れる様子もなかった。ローンはまたここで何かいおうとした。すると後ろの方で犬が急に吠え出した。金利もローンも驚いて後ろを振り返った。
金利教育に関係するサイトとして、ローンの教育や、ローンの融資などもご参照下さい。